ナルサス 原作ベース
ナルサスの日用に書いたブツ。以降のアレコレは息切れ及び時間切れのため割愛。
「サスケぇぇぇぇぇぇっっっ」
「っ?!」
いきなり腕の中へと飛び込んで来たものを咄嗟に受け止める。
ぎゅうぎゅうと、抱きつくというよりも、最早しがみついていると言った方が良いだろうモノへと漸く目を向ける。
「ナルトっ?!」
「?」
腕の中に収まってしまうだろう生き物の顔を見てサスケは驚いてしまう。それは、どこからどう見てもサスケの親友――不本意ではあるが『一番の友達』ならそうなるだろう――の顔にそっくりだった。
そっくり、ではあるのだが……。この生物(と書いてナマモノと呼びたいサスケだ)はサスケの親友であるところのナルトとはサイズが全く違っている。それに、サスケが名前を呼んでもきょとんとした目を向けているのだからナルトの変化とも考えにくい。
コレはいったい、と眉間に皺を寄せてしまいながら考えている間も、しがみつく力は一向に緩む事はなく『サスケ、サスケ』と名前を呼びながらぎゅむぎゅむ抱きついてくる。
ふわふわとした毛並みが顎を擽ってたいそうこそばゆい。
そこでハタと気付く。
毛並み?!
よくよく見てみれば、確かに人形(ひとがた)ではあるのだが……人にはないものがあちこちに付いていた。
頭のてっぺんにぴょこぴょこと動くのはどう見ても獣の耳だ。そしてそれにもまして圧巻なのは尻のあたりから生えているに違いないふっさふさの尻尾としか形容の出来ないものが多数。
多数?!
思わず数えたサスケである。
――一本、二本、三本……九本。九本!!
「九尾?!」
「?」
驚愕のあまり大声を出してしまったサスケだったのだが、やはり腕の中の生物は意を介さないらしく小首を傾げてサスケの顔を見上げている。
「……おまえ……オレの言葉は分からないのか?」
「?……サスケっ」
「オレの名前――なんで知ってる?」
全く意思の疎通が出来ない相手らしい。
サスケが何を言っているのか、その言葉は全く分からないらしいのに、何故かサスケの名前だけを呼んで、サスケをサスケと認識だけはしているらしい生物。
――いったいコレは何だ……。
ますますサスケの眉間の皺が深くなる。
九本の尻尾を持つ生き物など九尾の妖狐でしか有り得ない。
しかも、ナルトの顔をしている。
これが何なのかは不明だが、ナルトに関係したものには違いない。
そう結論づけようとしたものの、断定するのは早急過ぎるかと思い直す。
何らかの精神攻撃を受けた覚えも兆候もまるで無かったのだから考えにくいとはいえ、コレがサスケの精神を探った結果での投影された姿形だとすればナルトの顔かたちを取っていることに何ら不思議はない。
鬱陶しいほどに懐いてくるのも納得出来る。
ただ、サスケの周囲に人や害意を持つモノの気配はまるで無く、そうなると最初の疑問へと戻るのだ。
いったいこの生物はなんなんだ? という。
思考がループするのも仕方ない。
何しろいきなり腕の中へと飛び込んで来たモノであるから、その正体を探るには問い質すのが一番手っ取り早い。ところがあに図らんやサスケの言葉を全く理解しないときている。
これで途方に暮れるなという方が無理である。
「ひぁっ?!……っ!!」
己の思考に深く囚われていたサスケに対して抗議のつもりなのかいきなり首筋を舌で舐められて、びくっと躰が震えて予期せぬ声までが上がってしまった。それが気恥ずかしくて腕の中の生物を軽く睨むと途端に『きゅうん』と鳴いて、ごめんなさいとでも言うように眉尻を下げて情けない表情になる。
「……いきなり舐めるな。分かったか?」
自分の言葉の意味を理解しない生物だと既に解ってはいたが、それでも言い聞かせてしまうのは偏に姿形がナルトのミニチュアだからだ。耳と尻尾が付いてはいたが、それ以外はまんまナルトである。
尤も見かけの年齢は今ではなく十二、三年前の五歳かそこらに見えた。
サイズ的には全長で多く見積もっても五十センチはないだろう。丁度、抱き人形くらいのサイズだろうか。
「サスケっ」
サスケが絆されたのを敏感に察知したのだろう、ぱぁぁ、と表情を明るくすると嬉しげに名前を呼んで全身で懐いてくる。
「お前、オレの名前しか言えないのか?」
「サスケっサスケっダイスキっ」
「……」
其処だけは理解したのか名前以外を口にしたソレである。内容は何ともアレだったが。いくら外見がそっくりだからと言って、そこまで似なくても良いのでは、と思うほどだ。
「いったいお前何処から来たんだ?」
「サスケサスケっ」
何をどう問い掛けても返ってくるのはサスケの名前と後は『ダイスキ』という言葉だけだ。
まるで話にならない。
頭が痛い。
本気で頭痛を覚えて来たサスケである。
ただ、コレに害意はない。
サスケの瞳力がそれを教えてくれる。便利な眸である。
「しかし……どうしたものか、な」
コレを。
微かに目を細めて見据える。
「サスケっサスケっサスケっ」
そのサスケの表情をどうとったのか、いきなりその生物は嬉しげに名前を呼びながらサスケの顔中を舌でぺろぺろと舐め始める。
「うわっ……やめろっ」
慌ててその躰を引っ掴んで自分の躰から引き剥がす。
「サスケぇぇ」
顔の前に腕を伸ばし首根っこで引っ掴んだソレをぶら下げて抱え上げる形で見やれば、ソレもまた必死になって腕を伸ばしサスケへと再び抱きつきたいと手足をばたつかせて暴れる。しかも、その間『サスケサスケ』と煩い事この上ない。
「ちょ……おい……大人しくしねーか……このっ」
流石のサスケも閉口してしまう。
本物のナルトであれば有無を言わさず実力行使で黙らせる、という手もあるにはあるが。いくらサスケといえども全長五十センチ足らずの生物相手に本気になるのは気が引けた……というより大人げないと判断したのである。
「暴れるなっ。暴れると放り投げるぞっ」
思わず怒鳴る。
と。
そのサスケの言葉を理解出来たとも思えないのに掴んでいるソレがぴたり。サスケと連呼するのも動くのも止めてしまう。
サスケの言葉は判らなくともサスケの感情なり思考なりを解するというモノなのかもしれない。
「……大人しくなったな。そうやって大人しくしてろ」
動きを止めると共に今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めていたモノだが、サスケが怒気を収めたとみるや途端に破顔して再び「サスケ」と「ダイスキ」を繰り返し連呼し出す。
はっきり言って煩い事この上ないうえに。
「てめぇ……ウザい」
とうとうサスケの十八番が出てしまう。
すると再びぴたりと口を閉じてサスケを窺う。ソレ自体はこっそりとサスケに悟られないように窺い見ているつもりなのだろうが、サスケからすればバレバレである。
その仕草というか言動がまるでナルトで。
サスケはあまりのばかばかしさに怒りを持続出来ない。
――ったく。
いつの間にここまでナルトに対して懐深く気を許してしまったのか。サスケ自身、苦笑を禁じ得ない。ともかく、このナルトのミニチュア九尾バージョンに対しても、すっかり気を許してしまっている。以前のサスケからは想像も付かない姿だ。
「煩くするんじゃねぇ。いいな」
結構、ドスのきいた声で言い聞かせると今度こそ、それを理解したのか九尾のナルトもどきが、こくこくこくと何度も頭を上下に頷かせる。その様はたいそう可愛いらしい。
虚を突かれた風にサスケが一瞬眸を瞠る。
そうして。
にっこり、と――。
笑うと、その九尾のナルトもどきを柔らかく抱き締めたものである。
そのサスケにしてはとんでもなく珍しい笑顔と態度に相対してしまった九尾のナルトもどきもぽかんと眸を瞠った。だが、次の瞬間には『サスケぇぇぇぇぇぇっっっ』と自らも抱き締め返して――というかしがみつき――すりすりすり。猫でもあるまいに、ごろごろと喉を鳴らさんばかりに懐く。
今度は先刻サスケへと言われたことを踏まえたのか、最初に一声『サスケ』と叫んだ後は黙ってぎゅむぎゅむすりすりサスケへと、これでもかと言わんばかりに態度で『ダイスキ』と伝えてくる。
その様子に呆れた風に、そっと溜め息を吐いたサスケである。
処置無し。
その表情はそう言っていた。
「お前、いったいどこから来たんだ?」
今夜の宿にと決めた廃寺で簡単な夕飯を用意して食べている最中のサスケの問い掛けだ。ちゃっかり九尾のナルトもどきもそのご相伴に与っている。
サスケの傍にちょこんと座り、サスケが試しに与えてみた木の実の一種を両手に抱えて齧り付いては、もごもごと咀嚼する。
似ても似つかぬ容姿なのだが、その有り様は仔リスを何処と無し彷彿とさせる。
「ああ……口一杯に頬張るからか」
類似点を見つけた事で、心が和んだのかまたうっすらと口角が上がる。滅多に笑顔を見せないサスケである。その微笑ともいえない微笑ですら花笑みとなって見る者全てを虜にしてしまう。
「サスケっサスケっ」
「ああ……美味いか?」
頬を、耳を、顔中を真っ赤にしながら九尾のナルトもどきが、にぱぁと笑いながらサスケの名前を呼ぶ。それに柔らかな表情を返しつつサスケがぐりぐりと九尾のナルトもどきの頭を撫でる。かつて、倖せだった頃にことある毎に両親やイタチにされていたように。
それはそれは懐かしい感覚で。甘い砂糖菓子のような思い出だ。サスケがずっと封印し忘れようと記憶の奥底へと押し込めていた、暖かなメモリだった。
「おまえはナルトの何になるんだろうな」
九尾のナルトもどきの頭を撫でながら思考を飛ばす。
ここまで似ているなら無関係ということはないだろう。
出会って直ぐに可能性として考えた自身の側から出てきたモノかもしれない、という考えはとうに捨てている。サスケの記憶巣から引っ張り出されたモノであるなら、ここまでサスケの意のままにならないというのはおかしいからだ。
とにかく煩い。
黙っていろ、と叱り付ければその瞬間は大人しい。
だが、本当に束の間だ。
直ぐに忘れてしまうのかまた『サスケ』と『ダイスキ』の連発である。とうとうサスケの方が音を上げたというわけだ。
意識的に耳を塞いでしまえば、何とかやり過ごせる。
そこでサスケから離れようとしない九尾のナルトもどきを肩に乗せていたのだが、いつの間にやらサスケの頭によじ登ってそこを定位置に決めてしまった。
重さを全くと言って良いほど感じなかったため好きなようにさせたサスケである。
随分と寛容になってしまった感があるが、結局サスケという人間は己の懐へと入れてしまった相手には図らずも、とことん甘くなるという証明をしてしまったに過ぎない。
今も穏やかな表情で九尾のナルトもどきの頭を撫でるサスケに日頃の険の鋭さは見当たらない。
コレが何であれ危険ではないのだから暫く連れ歩くのも良いかもしれない。サスケはそんな風に考え始めていた。
静かな廃寺の中で落ち着いた平穏な時間が流れる。
それへとサスケが身を委ねようとした時だ。
「やっと見つけたぜっ……って、あーっ、何、お前サスケに撫で撫でされてんだっ?!」
けたたましく騒がしい声と気配が現れる。
それにサスケは心底疲れを覚えて深く溜め息を吐いた。
「ナルト、煩い――やっぱりお前が原因か」
そう返しながら乱入して来たナルトの剣幕に怯えたのか、慌ててサスケの懐へと飛び込んで来た九尾のナルトもどきをしっかり抱き締めている。
「あーっ! 何、サスケもそいつ抱き締めてんだよっ?! オレには進んでそんな事してくれねーくせしてっ」
「なんでお前を抱き締めなきゃなんねーんだ」
「なんで、って……なんでってそんなのオレとサスケが――」
「黙れ」
続くだろうナルトの言葉を先読みしてサスケが遮る。
じろり。
ナルトを睨みつけるサスケだったが、耳の周囲が真っ赤に染まっている。それはサスケが単に照れているという証だ。
「こいつはお前の何なんだ?」
更には、半ば強引に話の矛先を変えるために別の話題を振ってくる。そのサスケの態度がナルトには例えようもなく可愛く写る。
「そいつ九喇嘛だってばよ」
「くらま……?」
音を聞いただけでは直ぐにはピンと来なかった。
「九尾かっ?!」
まさか、とサスケが眸を丸くする。
それはそうだろう。
ナルトの中に封印されている九尾は、決して今サスケの懐に怯えてしがみついているような可愛げのある存在ではない。
以前、一度ナルトの精神世界での封印されている九喇嘛を見た覚えがあるし、その時以外でも何度か目にしている。が、とてもではないがコレのように愛らしいサイズでも愛くるしい態度でもなかった。身の丈はどこぞの怪獣かと問い掛けたくなるほどに大きく、更には威圧的な態度で隙あらばナルトもサスケも共に屠ろうと、その機会を虎視眈々と狙っているような妖怪の首魁だ。
とてもではないが同じモノとは思えない。
そのサスケの思いを正確に汲み取ったナルトがばつの悪そうな表情をする。
「あー……えっと、その、九喇嘛つーか、九喇嘛の一部、つーか」
何とも歯切れの悪い答えである。
それでも一応の疑問は解けたわけだ。
「九尾の一部」
「なぁんか抜け出ちまったみてーでさ」
「何だそれは……」
ますます呆れてしまったサスケである。
「なら返すぞ」
尤も正体が判ってしまえば、何と言うこともない。ナルト関連のモノだというサスケの予測は正しかったということだ。ならば返却するだけだ、と。サスケは単純に考えていたのだ。
――が。
「サスケっサスケっ」
肝心の九尾のナルトもどきがサスケから離れるのを嫌がってしまいサスケにしがみついて離れようとしないのだ。
「おいっ、こらっ、てめっ、サスケから離れろってばっ」
業を煮やしたナルトが九尾のナルトもどきの首根っこを掴んで、サスケから引き剥がそうとするのだが、チャクラを使ってまでいるのかぴたりと吸い付いたように離れない。
「……っ……」
力任せにナルトが引っ張ったのが痛かったのだろうサスケが顔を顰める。
「痛いぞナルト」
「あ、悪ぃっ」
しっかり抗議の声を上げたサスケに、ナルトも慌てて九尾のナルトもどきから手を離す。
そうサスケへと謝罪しつつ、忌々しげな視線を九尾のナルトもどきへと向けた。その眸はどう贔屓目に見ても嫉妬に染まっている。
「おい、ナルト……」
元々、こいつは九喇嘛でお前の一部だろうが――サスケの中に湧き起こったのはあくまでも正論である。嫉妬に狂った男に通用するものではない。
「だいたいっ、サスケがそいつ甘やかすからだろっ」
「はぁぁぁ」
これ見よがしの溜め息と心底馬鹿にした眼差しを向けられてしまうとナルトは弱い。
「な、なんだよっ」
「こいつは最初からこんなだ。オレがどうこうしたわけじゃねぇ」
「……」
「誰かさんの一部だからだろうぜ。サスケサスケ煩い」
「いや……その……」
「たく。自分のもんなら自分できっちり面倒みやがれ。オレにまで面倒みさせんじゃねぇ」
はい。ごもっとも。
サスケの言う通りなのでナルトに返す言葉はない。
「取り敢えず、こんなに嫌がってんだ。暫くこいつはオレが預かってやる」
「はぁぁ?」
「仕方ないだろう。離れねーんだ」
「いや、でも――」
「オレが戻るよう、よーく言い聞かせてやるから心配すんな」
「オレの一部だから心配なんだってばよっ」
「はぁ?」
ナルトの言い分にサスケの眸が眇められていく。
恐らくはナルトが何を指し示していてサスケへと言いたいのかを正確に悟ったのだろう。
見る間にサスケの纏う空気が剣呑になっていく。
「てめぇ……」
「あ、いや、そのっ」
「とっとと帰れ。飛雷神は置いて来てるんだろうな」
「だって……そいつ」
「心配しなくても誰かに渡したりはしねーよ。だいたいオレから離れるようならこいつが帰るのはお前のところしかねーだろうが」
「いや、そりゃそうなんだけどよ」
さっきのオレの言いたいこと、解ってくれたんじゃないんですか? だから、そこまで怒ってるんじゃないんですか?
そう言い返そうとしたナルトは、サスケの眸がいつの間にやら紅く染まって花弁のような文様を描いていることに今更に気付く。
「あの……サスケさんってば……おめめがまっかに……」
「帰れ。――安心しろ。こいつはお前ほど節操無しじゃねぇ」
本気のサスケである。
このモードのサスケに逆らうほどナルトも馬鹿ではない。
逆らったが最後、飛んでくるのは千鳥か千鳥千本か豪火球の術か……いや、麒麟もしくは天照の可能性だってある。
慌てて、這々の体でとんぼ返りしたナルトだった。
さて、暫くして件の九尾のナルトもどき――九喇嘛の一部がナルトの元へと約束通り帰って来た。
しかも、サスケが直々に連れ戻って来たわけで……。
無事、一部とはいえ欠けていた九喇嘛が元通りになって一件落着となったわけだが。
サスケの災難は寧ろ、その後に訪れたのだった。
END
Copyright (c) 2021 SUZUNE ANGE All rights reserved.
-Powered by HTML DWARF-