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ナルサス 原作ベース
サス誕。筆者が一番好きな『サスケ総愛され』パターン。
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 なぜか、皆が冷たい……とサスケは思った。
 第四次忍界大戦終結後にサスケは木の葉の里に戻って来た。
 ナルトとの最後の大喧嘩の果てに自分の負けを認めての帰里である。大見得切って里を飛び出した手前かなり格好悪い事になってしまったと思わなくもないが、それはそれはナルトが嬉しそうに笑うので良いかと思ってしまった時点で、ああ一生オレはナルトには勝てない、と悟ったものだ。
 さて、里に戻ったサスケはいきなり無罪放免となったわけではない。それはそうだろう。何しろ一旦はビンゴブックに賞金首として載ったほどの御仁である。
 本来であれば里抜けの罪、暁荷担の罪、五影会談襲撃の罪、とまぁ、数えれば枚挙に暇が無いほどだ。数年間の投獄、チャクラを封じての強制労働等を免れ得ないところである。
 それらがことごとく免除されて、一年間のナルトの監視付同居生活だけで普通に忍として復帰出来たのは、偏にサスケの担当上忍だったカカシが六代目火影へと就任したこと、大戦終結の立役者である今や世界の英雄となったナルトの嘆願、サクラを始めとする同期達の声、そして何より上層部の声を黙らせカカシが『うちは』の真実を暴露した事が大きい。
 サスケは一年間の名目だけは監視付の生活を送ったが、何しろナルトが監視役だ。サスケ大事のサスケ第一主義のナルトである。はっきり言って監視の意味は全くない。
 そういう里の体質に対して昔であれば甘いと悪態を吐いただろうサスケだが、その甘さに救われた今の状況では自分で自分の首を絞めるようなものである。
 そしてそんな一年が過ぎ、サスケは忍に復帰した。その頃にはサスケに対してとやかく言う者など、ほとんど居なくなっていた。
 元々、サスケは真面目でストイックな性格をしている。ナルトと共に暮らしている一年間で、それは同期の仲間にだけではなく里の隅々の人々にまで知れ渡った。
 それは事ある毎にサスケをよろしくだってばよっ、と触れて回る同居人のお陰でもあった。
 だから、今ではサスケの事を分けも分からず忌み嫌う者などはいないし、寧ろその容姿と相俟って昔のアカデミーさながら女の子が取り巻いて、といった状況さえ見受けられる。
 サスケにとっての木ノ葉の里での再びの生活は概ね皆から愛されて平和に過ぎていた。
 そして人間というものは環境に慣れるものである。
 最初は居心地悪そうにしていたサスケも一年が経ち、忍の生活に復帰して数ヶ月も経てば、すっかりそういった生活に慣れてしまったのだ。ただ、そのことで本人を責めるのは可哀想というものだ。
 そうして本日。
 サスケは朝から人々に冷たくあしらわれ続けていた。
 これが数年前の里抜け前であれば、オレに寄るな触るな関わるなでまったく今日は過ごしやすい日だぜ、とでも嘯いていたに違いない。尤も強がってたりは全くしていなかったのも確かなのだが。
 とはいえ、今のサスケは違う。人の情というものに対して、少なからず鬱陶しいとかウザいとかそういう感情ばかりではなく受け止めるという事を知った後だ。
 しかも人々から優しくされ、暖かな言葉を掛けられる事を普通と思って来た矢先である。
 最初に思ったのは、オレが何かしでかしただろうか、という事だ。最初に自分が悪いのでは、と思えるようになっただけでも大した進歩である。何しろサスケは基本、オレ様何様サスケ様な御仁なのだ。自分を譲歩するという事など滅多と無い。ナルトと喧嘩をしても、たいていサスケが謝る前にナルトが謝っている。
 だが、振り返って全く何もしてない事が分かれば、それで反省はお終いである。寧ろ、そんな風にされるならこれ幸いと距離を置く事に対して吝かではないと思ってしまう。結構、面倒くさい御仁でもある。
 つまり、基本サスケは悪い方へ悪い方へと物事を考える。
 倖せになろう、という努力はしない。
 何か哀しい事があっても、どうということはないと強がる。
 結果、人々がサスケに対して冷たく当たったという事も、訝しがったのはホンの束の間であり、後はそれも仕方ないか、と(悪い方で)納得してしまった。
 要するに、自分のような大罪人なら冷たくされて当たり前、という風にである。一年前ならともかくとして、今の時点でこの納得の仕方はないだろう。
 だが、これがうちはサスケなのだった。
 そして、こういう時に限ってナルトにも会えないのだった。
 なんだかんだ言いつつも今のサスケにとってナルトは癒しになっているのだった。
 ナルトと共に居るだけで心が穏やかになり、息が楽に出来る。
 だから、サスケは自然とナルトを探していた。
 それなのに、一向に会えない。
 いつもであれば会いたくもないのに一方的に煩く纏わり付いてくるというのに、だ。
「ウスラトンカチ……」
 ついつい、足が向いたのは幼い頃独りになった後、気が滅入った時に度々訪れて時間が流れるに任せていた桟橋だ。父との豪火球の術の修行を行った思い出の場所は、独りとなってからはサスケを少しだけ慰めてくれる場所となっている。
 そこで膝を抱えて時が過ぎるのを待つ。
 何をするにしても時間は中途半端過ぎるし、久々に接した人々の冷たい態度は思いの外サスケを疲れさせていた。
 いつの間にこんなに心弱くなってしまったのか。
 自嘲の笑みが零れてしまうのを止められずにいる。
「全部、おまえのせいだ……」
 ガリ、と頭を掻いて俯く。
 もう帰るか、とサスケが立ち上がったのはとっぷりと日も暮れた頃である。
「サスケェェっ」
 立ち上がるや聞き慣れた声がサスケの名前を呼ぶ。
 その独特のイントネーションと力強いサスケを縛る声音に自然笑みが込み上げてきてしまう。
 桟橋まで一気に駆けてくるなり、サスケの躰をその力強い腕で抱き締める。
「っ……お、おいっ……何をっ」
 そのいきなりの行動にサスケが慌てる。
「も……っ……サスケっ会いたかったぜぇぇっ……今日やっと会えたってばよっ」
「い、いったい……何なんだっ」
 突然の事にサスケは驚くやら慌てるやらだ。
 今までもナルトからのスキンシップが無かった訳ではない。どちらかと言うとナルトは友人との接触を楽しむタイプだろうとサスケは踏んでいる。なぜなら、やたらとサスケの肩を抱いて来たり背後から抱きついて来たり腰を引き寄せてみたり、とサスケからすると過剰とも思えるスキンシップを仕掛けて来ることが度々有るからだ。
 それでも今ほどあからさまではなかったという気がしている。
 何しろ今は家の中ではなくて外である。
 何時何処で人に見られるのか分からない状況だ。
 そういう時はサスケが阻止する事もあって、今までこんな状況に陥った事などない。
 サスケが戸惑ってしまうのも仕方ない。
「いや、それがさぁ……今日は……っ……と。え、っと……取り敢えず家に帰ろうってばよっ! でないとオレが殺されっちまう」
「殺される?」
 例えにしても随分と物騒な台詞である。
「そうそう。さ。帰ろ帰ろってばさっ」
 だが、ナルトにサスケの疑問に答える気は今の処ないようだった。
「サスケっ、さ、帰るってばよっ」
 もう帰ろうの一点張りで、抱き締めている状態からごくごく自然にするりと手を繋いで引っ張って行く。
「おいっ」
 その状態にも慌ててしまうサスケだ。
 いい年した男が二人、手を繋いで歩いているというのは格好の見世物ではないのか? と思えてしまい二の足を踏んでしまう。
 くん、と背後に引っ張られる感触にサスケが立ち止まったままなのに漸くナルトは気付いたらしい。
「うぉっ……っと、どうしたんだてばよ」
「ウ、ウスラトンカチっ」
「はぁ? いきなり何だってば」
「それはこっちの台詞だっ……手!」
「へ?」
「手ぇ離せっ」
 焦って訴えるのだが、ナルトには一向に堪えた風はない。サスケは寧ろ不思議そうな表情で見返されてしまった。
「なんで?」
「いや……だから、男二人で手、繋いで歩くなんておかしいだろっ」
「別におかしくねーってばよ」
 きょとん、といかにもおかしな事を言われたといった風に返されると、まさかオレが里を離れているうちに里の常識は変わったのか、という気になってきてしまう。
 そのくらいナルトの返事はごくごく当たり前の事をごくごく当たり前に返しました、と言わんばかりの態度だったのだ。
「……」
「だって、オレたちかなりの友達だしっ」
「……」
 ナルトは、そういえばサスケが全て納得するかのように事あるごとにこの『オレたちかなりの友達だし』というフレーズを口にしてくる。
 そして、今回もまたサスケは結局そのナルトの態度と口癖に負けてしまうのだ。
「変な目で見られたら直ぐに離すからなっ」
「そんな事ぜってーないってばよっ」
 一応、と念押しをするサスケに明るく返してから、くい、と繋いだ手を引っ張ってサスケへ行こうと促す。
 ここまで言われてしまえばサスケとしても腹を括るしかない。
 今度こそナルトに引っ張られる儘に歩き出した。
 そしてナルトがサスケを連れて行ったのは、帰ろうと口にした癖に家ではなく居酒屋『酒酒屋』である。
「?」
 疑問符を浮かべるサスケに構わずに、ナルトは頓着せず店へと入ろうとする。
「お、おいっ。ここは家じゃねーだろ」
「いーからいーから」
 未だ未成年だぞ、と逡巡するサスケを半ば引き摺るように強引に店の中へと入っていく。
 ――と。
 サスケが店へと一歩踏み出した途端である。
 パン、パン!
 威勢良くクラッカーが鳴らされた。
「っっ!」
 驚くサスケの足が止まる。
 それを今度は背後に回ったナルトが押し出すようにして店の中央へと促す。
 店の中は見事にパーティー仕様に誂えられていた。
 見るからに手作りといった垂れ飾りが至るところに設置されていて、店入り口の正面の壁には大きな横長の垂れ幕が飾られている。
 そこの文字は『サスケくん、お誕生日おめでとう』というものだった。
「……」
「「サスケくんっ、お誕生日おめでとうっ」」
 事態がよく飲み込めず突っ立ったままとなっていたサスケの両隣へと、すかさずサクラとイノが駆け寄って来てそれぞれがサスケの腕を獲って小卓を集めて一つの大きなテーブルとしたらしい、その真ん中へと誘う。
「サスケくんっ、今日誕生日だそうですねっ。おめでとうございますっっ」
「……サスケくん、お誕生日おめでとう」
「いくつになったの? 十九歳? お酒呑めるまでもうちょっとね」
「サスケおめでとう。今日は未だアルコール抜きのカクテルだからね〜」
「おめでとう、ここの料理美味しいんだよ。サスケはタダだから遠慮なくいっぱい食べてね」
「たく、めんどくせーこと思いつきやがって。ま、こういうわけで昼間は済まなかったな」
「そうそう。サスケに内緒な、つって言うもんだからよ〜しかもいろいろ手伝わされたしなっ。こいつも活躍したんだぜ」
 店に居るのは同期の面々だ。
 口々に祝いの言葉を言ってくるのに面食らうサスケに対して、最後の二人だけは謝罪と内幕とをばらしてくる。そして『こいつも』と言われたキバが嬉しげに『くーん』とサスケの掌へと鼻面を押し付けてくるに至って、漸くサスケはハッとする。
「皆でサスケの誕生日を祝いたかったんだってばよっ! 発案者はオレとサクラちゃん。飾り付けとか準備とかは全員でやったんだってばよっ」
 何故か自慢げなナルトに至っては……。
 胸が一杯で皆の顔を見ていられない。
 それでも……声がする。
 倖せだったあの頃。
『サスケ、祝って貰ったら何て言うの?』
『嬉しいなら嬉しいと素直に言わないとな』
『――いくつになったのだ?』
 ああ――……。
 どうしよう。嬉しい。
「あ……ありがと……」
 はにかみながら礼を言うサスケというものを初めて――ほとんどの者が――目にした衝撃は筆舌に尽くしがたいものがあった。
(っか、可愛いっっっ!!!)
(なにっ、この可愛い生き物っ! 持ち帰っちゃっても良いわよねっ?)
 等々。
 同期皆のハートをぶち抜いた。
 ……のだが。
 肝心のサスケだけが全く何も分かってないままだった。
(っサ、サクラちゃんっ)
(まさか、ここまでの破壊力だなんてっ)
 そして、相も変わらぬ二人はアイコンタクトで会話の真っ最中だ。
(いーいナルトっサスケくん絶対死守だからねっ!)
(おうっ、分かってらぁ! 任せろっサクラちゃんっ!)
 一人、サスケだけが皆の想いに感謝し感激して、その倖せに浸っているのだが……。
 水面下でのバトル――名付けて『サスケ争奪戦』とか何とか――は、ますます熾烈を極めていくのだった。




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