夢幻の光明


ナルサス未満 原作パラレル
朝方夢うつつに思い浮かんだ嫌われサスケに萌え滾り欲望のままに書き殴った話。
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 その子供はいつも一人だった――。





 道端に蹲っているか川辺の桟橋に一人ぽつねんと座っているか、いつも同じ格好をして髪もざんばらで長い前髪が表情を隠している。
 一人で蹲っていなければ大抵の場合、誰かに小突かれたり詰られたり罵られたりしている。
 まるで汚いものを見るかのような眼差しが常に向けられており、里の中で独り孤立していた。
 その子供を庇う者は一人としていない。
 それも仕方ないのかな、と思ったりしたのはその子供の近くに行った時に異臭がしたからだ。
 もうずっと洗ってないに違いない服は汗や泥で汚れきっており、衣服から出ている手足も垢まみれで見るからに汚らしい。
 季節は冬――余程でない限りは異臭など感じない季節に、それを感じたということは相当その子供の全身が汚れきっているということに違いなかった。
 昨今、物乞いや浮浪者でももう少しはマシなのではないかというくらいに、とにかくその子供は汚かった。
 自分も一人ではあったけれど、清潔にすることは気をつけて心掛けていたし、時折訪れる三代目火影の猿飛ヒルゼンが自分の〃後見人〃であると聞かされて、周囲の大人たちにきちんとするよう諭されてからは更に気をつけるようになっていた。
 ヒルゼンの事は大好きだったので、その大好きな人が恥ずかしい思いをするような真似をしたらいけないのだ、と幼いながらも悟ったのだ。
 ただ、その独りぼっちの子供には、そういった〃後見人〃もいないようだった。
 ――誰も庇ってくれる人はいない。
 優しい言葉を掛けてくれたり暖かな衣服や美味しい食事を用意してくれる者も誰一人として持たない子供。
 ただ一人、里の中で生かされているというだけの子供は痩せ細ったちっぽけな存在だった。
 同じ一人であるというのに全く自分とは異なる存在に思えた、その子供の事を何時の頃からか気になって気になって仕方なくなっていた。
 三代目火影を後見人に持つ子供の名前は、うずまきナルト。
 その命と引き替えに九尾の妖狐から里を救った英雄・四代目火影である波風ミナトとその妻・うずまきクシナの一粒種であり、英雄の子供として里の中で確固たる位置を――本人の意図していないところで――築いていた。
 ある小雪がちらつく寒い日。
 ナルトはヒルゼンからプレゼントとして貰ったマフラーをして里の中を歩いていた。時折貰えるお小遣いをお気に入りのカエルのがま口に貯め込んでいて、その日は大好物の一楽ラーメンを食べようと思って一楽へと向かっているところだった。
 ラーメンラーメンと出鱈目な鼻歌を歌いながらご機嫌で歩いているナルトの眸に飛び込んで来たのは、件の気になる子供が常のごとくに里人に囲まれて暴力を振るわれているところだった。
 子供は既に立っておらず横たわったまま躰を縮こまらせている。そんな状態であるにも拘わらず、取り囲んだ者達は同じ子供であっても遙かに年上であり、もう青年と呼んでも差し支えない程の年齢であった。
 そんな年上の者が年端のいかない子供を寄ってたかって蹴飛ばし脚で小突き回しているのだ。
 近付けば「くせぇ」だの「死ねよ」だの聞くに堪えない罵詈雑言すらも聞こえてくる。
 思わずナルトは渋面となった。
 確かに、その子供は汚くて傍に寄ると異臭がする。だからといって暴力を振るっても良いとは思えない。しかも、無抵抗の者に対してなど言語道断である。
「ヤメロってばよ」
 だからナルトは思わずその子供を庇うように割って入ったのだった。
「何だぁてめぇ……っって……ナ、ナルト様っ」
「何、弱い者虐めしてるんだってばよっっ」
「あ、いや、その……ですね」
「この子供がオレ達にぶつかって来たもんで、ちょっと教育的指導を、と思った次第で」
「そ、そうです。それにナルト様が庇われるほどの者じゃありません。捨て置いて結構なんですから」
 口々に己の正当性を主張する青年達だが、ナルトの眸には見苦しいとしか写らない。
「きょういくてきしどう、って弱い者虐めすることなんだってばよ? じいちゃんに今度聞いてみるってば」
 わざと物知らずなフリをして告げるナルトの言う〃じいちゃん〃というのが三代目火影のヒルゼンであることは里人であれば周知の事実である。青年達は当然、慌て出す。
 確かに、この汚れきった子供は里人全員から忌まわしい者として忌み嫌われている存在ではあったが、理不尽な暴力に曝して良いというものではない。
 寧ろ、そんな事をしていると知ったら高潔なヒルゼンは暴力を振るった者を許しはしないだろうという予測はついた。
「あ、ナルト様っ、三代目火影様に問われるようなことではありませんからっ」
「そうですそうです。弱い者虐めではありませんから」
「……もう気が済んだんなら、とっととどっか行けってばよ」
「ナルト様、三代目様にこのことは――」
「じいちゃんには何も聞かないってばよ。それなら良いのかってば」
「は、はいっ」
 ナルトの言葉に何度も頷けば青年達は我先とその場から逃げ出して行く。それはもうあっぱれと言って良い逃げっぷりだ。
「……あれでも下忍とか、じいちゃんにもうちょっと質を高めるよう言った方が良い気がするってばよ。それこそ教育的指導が必要だってば」
 逃げ出した青年達を見送ってナルトは一人言ちる。
 そして、横たわって身を縮めている子供へと屈み込む。
「大丈夫かってばよ」
「……」
 ナルトの問い掛けに子供は答えない。頭を抱えて縮こまってるままだ。最初は問い掛けを無視しているのかと思ったナルトだったのだが、ぴくりとも動かないことに気付くと慌ててその子供の鼻先へと手を持っていき息をしているのかを確かめると同時に首筋に手を当てて脈拍も確認する。
 そうして感じた本当に微かな、今にも止まってしまいそうな呼吸に脈拍。ナルトは慌てて影分身を作り出すと、全員でその子供を抱えて走り出す。目指すのは勿論木ノ葉病院だ。この子供が今にも死にそうになっているのを確信したからだ。
 病院側は最初、受け入れを拒もうとしたのだが、ナルトが頑として聞かずにヒルゼンの威光をもって受け入れさせたのだ。
 そうして、その子供は一命を取り留める。
 暖かな病院の特別室で目覚めた子供は最初、己が置かれた状況が飲み込めなかった。
 何故、こんな清潔で暖かな部屋に寝ているのだろう、と。
 不思議に思っていると、ガチャリとドアの開く音がしてびくっと身を竦ませる。
 子供にとっていつもと違う状況は只管に怖ろしいものでしかない。
 咄嗟にベッドから飛び降りて逃げ出す事を考えたのだが、弱り切った躰はそれを可能にはしてくれない。
 飛び起きようとした途端、くらくらと眩暈が起こって再びベッドへと沈んでしまう。が、柔らかなベッドは躰に痛みをもたらす事も無くふんわりと子供の躰を受け止めた。
「何やってんだってばよっ。未だ起きたら駄目だってばっ」
 その一部始終を見る事になったナルトは慌ててベッドの傍まで駆けつけると、やんわりと子供の躰を掌で寝かしつける。
「助かって良かったってばよ。お前ずーっっと目が覚めなかったから心配してたんだってば」
 にこにこと笑いながら告げるナルトだったが、子供は困惑した表情を見せるだけだ。それどころかナルトの手が子供を労るように添えられるのにもびくびくと脅えを見せる。
 それがこれまでの子供の境遇を何よりも物語っていてナルトは哀しくなる。
「お前の名前なんて言うんだってばよ。オレはうずまきナルトだってば」
 自己紹介をするナルトだったが子供からの返答はない。
「安心して良いってばよ。オレはお前のこと虐めたりしないってば。それどころか仲良くなりたいんだってばよ」
「……」
 そのナルトの言葉に子供が吃驚した表情をする。
生きて来てこの方、ナルトの様な言葉を掛けられた事などついぞなかったのだ。
「な! オレと友達になって欲しいんだってばよ。お願いっ」
 ナルトは両掌を合わせて顔の前まで持ってくると拝むようなポーズをしてみせる。
 この子供の不信感がちょっとやそっとの事では拭われる筈がないと知っていての言動だ。
「…………サスケ」
 子供が小さく聞き取れるか聞き取れないかの小声で名前を告げ、 それにナルトは大きく破顔した――。
 これが後に忍界を統べる英雄ナルトとその半身サスケが交わした初の言葉だった。





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