綺麗な可愛い子は大好きだってばよ!


ナルサス 原作ベース
原作終了後ナルト過去に行くの巻
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 ただ――逢いたかった。
 それだけだった。
 他意はなく。
 ただ、自分が知らなかった頃のサスケに逢ってみたかった。その一存だけだったのだ。
 

 ナルトが七代目火影となってから暫く経った頃だった。
 それが何時の事でどういう心持ちでそうなったのかなどは大した問題ではない。
 重要なのは、ナルトがそれを思い立ってしまい、それだけならまだしも即実行に移してしまった、という事だった。
 流石に意外性ナンバーワン忍者であると言える。
 一応、断っておくが、これは褒めているわけではない。
 悪しからず、といった話である。
 ともあれ。
 ナルトは或る日の事だが、幼い頃のサスケに――自分がアカデミーでスカしたヤツだと認識して訳も無く毛嫌いしてしまった、その頃よりも更に前の。
 言ってみれば、里の思惑で犠牲となり復讐一辺倒となってしまったサスケになる前、未だあどけなくイタチに懐きまくっていたという、後のサスケしか知らないナルトからすれば、それはいったい誰の事ですか? といった頃のサスケに逢いたくなってしまったのだ。
 これは別にナルトが悪いわけでは無いと思う。
 人間誰しも、特別親しくなった人間の自分が知らない過去を見てみたいとか、知りたいとかというのはごくごく自然な心持ちだからだ。
 ただ、そんな風に願っても普通であれば到底叶えられる筈もない願いである。ところが、忍者でしかもナルトクラスともなると、それすらも容易く叶えられてしまったりするのである。
 まったく困ったものである。



 印を組んで術を発動する。
 次の瞬間、ナルトは鬱蒼とした森のただ中にいた。
 ――ここは何処だってばよ?
 ナルトが組んだ術式は対象――この場合サスケである――が存在する過去へ飛ぶ、といったものだ。
 ということは、この深い森の中に幼いサスケが居るということになってしまう。
 こんな森に幼子が居るのは危ないのではないだろうか? ナルトは余計な心配までしてしまう。大きくなったサスケが居るのだから、過去に危ない事があっても回避済みであると理解はしていても、心配になってしまう。
 やはり、それは自分も親という立場になったからだろうか、などと考えていると甲高い幼子の呼び声が耳に飛び込んでくる。
「にいさぁん……にいさん……どこ?」
 どっきん。
 ナルトの胸は高鳴った。
 間違いない、これはサスケである。
 しかも、ナルトが願っていた兄がいて両親がいて未だ倖せで輝いていた頃のサスケだ。将来に何が待ち受けているのかを知らない倖せな頃のサスケである。
 ナルトは素早く音を立てないように移動すると、そっと木の陰から幼いサスケを盗み見る。
 ――っっかっ、可愛いっっっ
 記憶にあるアカデミー時代のサスケを更に小さくコンパクトにした感じのサスケが其処にいた。ただ、アカデミー時代のサスケは既に闇を知っており、目つき鋭く纏う雰囲気も触れれば切れてしまうといった鋭利なものを醸し出していたものだ。
 だが、目の前のサスケはどうだろう。
 目元は柔らかく、幾分ふっくらとした頬は歩き回っているせいか軽く紅潮している。あどけない口元が兄の名前を紡ぎ出すのだが、不安が押し寄せてきているのか纏う雰囲気に怯えが混じっている。
 呼び掛けている内容からすると兄のイタチを探しているのだろう。はぐれてしまったのか、キョロキョロとあちらこちらへと顔を向けながら視線を飛ばして兄の姿を探している。
 とにかく可愛い、の一言に尽きた。
 我が子を思い出す。年の頃からすれば少し目の前のサスケの方が幼いだろうか。それでも我が子のこの頃と比べても可愛らしさが格段に違っている。
 もちろん、ボルトが可愛くないわけではない。可愛い息子だ。
 だが、何と言うかボルトは小さな頃から悪戯小僧といった雰囲気が滲み出ており、こういった可愛らしさとは無縁だったのだ。
 どちらかと言えばボルトというよりヒマワリの幼い頃に雰囲気は近いのではないだろうか。
 つまり、目の前の幼子サスケは雰囲気的には少女に近いのである。
 ――ヤバいってばよっっ! こんな可愛い子直ぐに誘拐されっちまうってばよ!
 出来るものなら自分が誘拐したいくらいだ、とか思わず考えてしまったナルトである。まったく飛んでもない犯罪予備軍が此処にいたものだ。しかも現火影とかいう時点で終わっている。
 そして、ナルトにしても本当は姿を見せるつもりなどなかったのだ。遠目に見て、それで満足して元の時間軸へと帰るつもりだった。
 幼子のサスケを一目見て、それで満足して帰る。
 それが此処に来る前にナルトなりに考えて決めて来た事だった。
 なぜなら、未来の人間が過去へとやってきて、それで過去が変わってしまったらまた未来も変化してしまう。
 些細な変化であっても、未来へと至る道程でその揺り幅が何処まで大きくなるのか分からない。
 ヘタをすれば、ナルトやサスケが居なくなってしまうといった最悪の未来へと続いてしまうかもしれない。
 そんな事は出来ない。
 だから――サスケには逢わない。
 遠目に見るだけ。
 そう思い決めて来たというのに。
 ――こんなに可愛いなんて詐欺だってばよぉぉぉっっ!
 逢わないと決めていた。
 逢わない。
 逢わない。
「にいさん……どこ?」
 あ……。
 ――無理だってばよぉぉぉぉぉっっっ!
 今の声は完全に涙声だった。
 ただでさえ、お持ち帰りしたくなってしまったほどに可愛いのだ。
 そんな可愛い子が泣きそうな声で助けを求めている。
 ここで動かなければ、そんなの大人じゃない!
 大人として助けてやらなくては!
 ナルトは毅然として思った。
 思ったなら即実行がナルトの信条である。ここに来ることを決めたのも全く同じ。まぁ、同じ人間なのだし数時間でそうそう変わるわけでもないのだが。
 バッと木の陰から飛び出す。
「……ひっ」
 突然、見知らぬ大人の男が目の前に飛び出して来たら、それは怖いだろう。幼子サスケもそれは同様で、目の前へと大きな影が飛び出した時点で息を呑んで立ち尽くしてしまう。
 泣き出しそうだった表情は、とうとう大きく瞠った黒の眸からぶわっと涙が溢れ出てしまっている。
「うわっっ、なっ、泣くなっ! 泣くなってばよっ。怖くないからっ。おじさんは味方だから、なっ? 泣くなってばよっ!」
 そして、その泣き顔に慌てたのはナルトの方だった。
 慌ててしゃがみ込んで目線を合わせると必死になって宥めにかかる。
「……おじさん……みかたなの?」
「そう、そうだってばよ。サスケの味方だから安心するってばよ」
「おじさん、なんでさすけのなまえ、しってるの?」
 ナルトがサスケの名前をついうっかり呼んでしまったために、怪我の功名と言えるかもしれないが、驚き過ぎたのだろうサスケの涙が止まる。
 あわわわわわ名前呼んじまったってばよっ、内心大慌てなナルトだったのだが、次の瞬間には呼んじまったものは仕方ないってばよ、と大いに開き直っている。
 ――つか、自分のこと名前呼びとか!
 内なるナルトは大悶えだ。
「えーっと、えーっと、だな。それはおじさんがサスケを助けるために来たお助けマンだからだってばよっ」
「おたすけまん……」
「そう、そうだってばよっ」
 この際、サスケが納得するなら何でも良かった。大慌てで、こくこくと何度も頷く。
「おじさんが、さすけをたすけてくれるの?」
「助ける助ける。サスケを助けるってばよっ」
「わっ」
 もう限界っ、とばかりにナルトはサスケを抱き上げる。
 抱き上げて思いっ切り頬摺だ。
「おじさん……ほっぺつぶれちゃうよぉ」
 ぐりぐりぐり。
 ――も、可愛い過ぎるってばよ。何なんだってばこの子ってばよぉぉぉ。
 小っさいサスケの破壊力は抜群だ。
 確かにこれは可愛がるしかない! イタチが目に入れても痛くないほどの可愛がりようをみせた筈である。サスケの両親もこれは甘やかすしかないだろうと納得の可愛さ。
 別に比較してはいけないのだと分かってはいるのだが……。ついつい我が子と比べてしまう。
 ――育て方が悪かったってばよ。
 自分の子育ての反省までしてしまう。
 恐るべし子サスケの威力。
「サスケはここにイタチと来たのか?」
「おじさん、にいさんのこともしってるの?」
 あ、またやっちまった、というのがナルトの内心の声だ。
「もちろん! だっておじさんはサスケのお助けマンだからだってばよっ」
 口から出任せも良いところである。
「そうなの? なら、にいさんがいまどこにいるかわかる?」
 ところがサスケは疑いもしない。
 ――なんって素直なんだってばよっ。こんな、こんなだったら、悪い人に騙されっちまうってばよっ!
 庇護欲がますます高まる。
 ハタと気付く。
 サスケが大蛇丸に唆され、マダラを名乗ったオビトに騙されしたのは、この素地があったからだ。素直で人を疑うことを知らない。真っ白なサスケ。
 ――イタチ兄ちゃんが言ってた通りだってばよっ!
 確かにイタチはサスケのことを素直で真っ白だと評していた。
 まさかそれを実感する時が来るなんて! という話である。
「分かる分かるってばよ。ちょっと待ってくれってばよ」
 頭をなでなで。
 ふわりと柔らかな質感の髪の毛が掌をくすぐる。
 ナルトの言葉に心底嬉しそうな表情をしてナルトの首へと細い腕を回してくる。
 思わずナルトの相好が崩れる。
 ――うー……ほんっとこのまま持ち帰りたいってばよっ!
 それが許されない事はよーく分かっている。
 分かってはいるのだが……。
 内心の葛藤はそれはそれとして。
 ナルトは静かに目を瞑る。次に目を開けた時には同好が細長く変化していて目の縁が紅く染まっている。――仙人モードである。
「…………おじさん……めがへんだよ?」
 初めて見る仙人モードにサスケは目をまん丸くさせる。が、興味津々といった様子でナルトの顔を凝視している。
 その様子がまた可愛い。
 あー何をしても可愛い、どうしようとナルトは再びもだもだしてしまう。
「おじさん……め、もどっちゃった?」
 サスケの指摘にハッとする。
 あまりなサスケの可愛らしさに煩悩が突き抜けて仙人モードが思わず解けてしまっていた。
「あ。ごめんってばよ。直ぐに戻すってばよ」
 煩悩退散煩悩退散煩悩退散……。
 ざわめく心を必死になって宥めて鎮めるためにお経を唱えるがごとく煩悩退散を繰り返す。その時点で煩悩まみれからは脱せてないと気付くべきだろう。
 ともあれ、何とか平常心を取り戻して再度、仙人モードにチャレンジだ。
 ナルトの顔が仙人モードのソレになり、感知力が格段に上がる。
 数回、見えた事のあるイタチを探す――背後にひやりとした殺気を感知したのは同時だ。
 バッと飛び退いたナルトの腕から既にサスケの姿はない。
「にいさんっっ」
 パァァァ。
 花が綻ぶような、とは良く言ったものである。
 輝かんばかりの笑顔を浮かべて。サスケが抱き上げてくれているイタチの首にしっかりと抱き付く。
「にいさん、あのね、あのおじさんが――にいさん、どうかしたの?」
 剣呑なイタチの雰囲気に気付いたのだろう。喜びが溢れんばかりだったサスケの顔がホンの少し曇っていく。
「ああ、サスケ。どうもしない。大丈夫だ」
「そうなの?」
 サスケが幾分しょげた風なのを見取った途端、イタチの雰囲気がまるで正反対のものに変化する。柔らかく、傍にいる者を安心させる雰囲気だ。
 それはもう鮮やかとしか言いようのない変化である。
「あのね、おじさんがにいさんをさがしてくれたの。おじさんはね、さすけのおたすけまんなんだって」
 辿々しくもサスケが一生懸命にイタチへと説明していく。
「そう、良かったね。サスケ」
「うんっ」
 兄弟のやりとりを、生命を取られ掛けたわけだがナルトは微笑ましく見てしまう――正しくは、煩悩まみれでサスケを。
 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いってばよーーーーーっっ! 何度繰り返しても繰り返し足りない。
 うん、って。うん、って。もうもうもう可愛い過ぎだろってばよっ、目尻は下がり、ついでに鼻の下も延びっぱなしで。でろでろに相好を崩した表情でサスケを見つめる。
 ほとんど危ない人である。
「あなた……なんなんですか? 俺の弟のサスケに何の用なんです?」
 言葉はそこで途切れてはいたが、そこに続く台詞。返答次第に依っては確実に地獄へ逝って貰いますから、がナルトにはしっかりと聞き取れた。
「オレ? オレってば……」
「さすけのおたすけまん」
 さて、何て言って誤魔化そう。サスケと違ってイタチは相当手強いに決まっている。思わず言い淀んでしまったナルトだったが、そこですかさず何とサスケのフォローが入った。
「そうそうそうだってばよっ。サスケを助けるために来たお助けマンだってばよっ」
 もう、こうなったら、それで押し通すしかない。
 イタチが騙されてくれなくとも、サスケさえ納得してくれたなら、もうそれで良いやという気になっている。
「…………」
 そんな事で騙せると思ってるんですか、と言わんばかりの胡散臭そうな眼差しを見事に向けられる。
「ははは……」
 ナルトとしてはもう笑って誤魔化すしか手は残っていない。頬を掻いて目を合わせないようにして何とかこの場から逃げ出す算段を始めるしかない。
「にいさんをさがしてくれたの……すごいの。おめめがかわるんだよ」
 興奮したように告げるサスケの言葉に少しだけだがイタチの雰囲気が丸くなる。本当にホンの少しだけだが。
「……あなたが誰であれサスケを助けてくれたことには違いないようですので。それにはお礼を申し上げます」
「あー……そんな良いってばよ。サスケみたいな可愛い子が泣いてたら誰だって助けたくなるってばよ」
「サスケ、泣いてたのか?」
「っ! なっ、ないてないもんっ」
 どうやら泣かない、という約束をしていたようだ。
 可愛いサスケが窮地に陥るのはナルトの本意ではない。
「あ、間違い間違いだってばよ。サスケ泣いてないから」
 すかさず否定したナルトにサスケは、ぱぁぁと表情を明るくして、ないてないもんっ、と再度イタチに訴えている。
 イタチはやれやれ仕方ないといった溜め息を一つ零す。どうやら、こういったやりとりはいつもの事のようだと、ナルトは判断する。
 きっと愛されて甘やかされている末っ子は『男の子は泣かない』とでも日々言い聞かせられているのに違いない。恐らくだが、きっと泣き虫でもあるのに違いない。それを泣かないように我慢して我慢している表情を見せられた側からすれば、例え我慢仕切れずに泣いてしまったとしても、泣かなかったよ、と告げてやる優しさを発揮してしまうに違いない。
 例に漏れずナルトの対応もソレだったものだからイタチは諦めたように溜め息を吐いたのだ。
 ほんっっとに可愛いってばよぉぉぉっっっ! 再度、心の中で何度目になるのか分からない台詞を力強く叫ぶ。
「……ここは、うちはの領内です。あなたはうちはではないでしょう? 早く戻ってください。でないと俺はあなたを不審者として捕まえなくてはならなくなる」
「捕まえられるのは困るってばよ」
「ならば早く――」
「おじさん、どっかいっちゃうの? もうあえない?」
 至極冷静なイタチの言にナルトは漸く、深い森であるにも拘わらずサスケが一人でいた理由を納得する。『うちは』の領地内の山であれば、うちはの目が其処此処に光っている。そこからサスケを連れ出す事など不可能に近い。
 それこそ、ナルトクラスの忍者でなければ、うちはの目を盗んでサスケを浚うなど無理な相談である。
「あー……ごめんな? でも、おじさんはサスケのお助けマンだから、きっとまたサスケが困った時には必ず助けるってばよっ!」
 そう。必ず。
 お前が闇に染まろうとしても、そんなことは絶対にさせない。
 声にならない悲鳴を上げて声に出来ない助けを求めるサスケを、絶対に助ける――助けてきた。
 だから。
「サスケは何にも心配する必要なないんだってばよ! 絶対にオレが付いてるんだってばよ!」
 少しでも。
 この先に辛いことがたくさん待ち受けているのは分かっているから。それが少しでも軽くなるように。絶対に自分はサスケを見捨てたりはしないのだから、と。絶対に伝えておきたくて。ナルトは力強く宣言する。
「……まぁ、良いでしょう。さあ、行ってください」
 イタチにはナルトの事は分からなくても、ナルトが嘘を言ってるわけではないということは分かった。
 なので、再度ナルトへと領内から出るようにと促す。
「おう。……その」
「なんです?」
「兄弟仲良くだってばよ」
「……ええ。あなたに言われるまでもなく」
「そ、そうだったってばよ。じゃ、サスケ……」
 またな、という言葉は辛うじて飲み込む。
 その代わりに、万感の思いを込めてサスケの頭を撫でた。――イタチはナルトの様子から何かを感じ取ったのか、それについては阻止されることはなかった。
 サスケの傍にいればいただけ別れが辛くなるばかりだ。そう悟ってナルトはバッと身を翻す。振り返らない。振り返ったらきっと、連れ帰りたくなる。
 連れ帰って、何も辛いことを知らないままのサスケを。
 そのままのあどけなさを残したままに育てたくなってしまう。
 真っ白な綺麗な心を持った優しいサスケ。素直な人を疑う事を知らないそのままに繭の中で育ててみたくなる。
 でも、それはしてはならないことだった。
 だから――ナルトは真っ直ぐに前を向いたままに走った。
 走りながら印を組む。
 切なかった。
 あんな風に汚れを知らないサスケが居たことが哀しかった。
 あの頃に会えていたなら!
 言っても仕方ないことだと分かってはいても。
 悔しい。
 何の力もなかったことが。
 あんなに可愛いサスケが、里の上層部の思惑のせいで近いうちに地獄の苦しみを味わうことになってしまのだ。
 取り敢えず、戻ったら里の上層部の体制を再度見直すところから始めようと誓ったのだった。



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