ボルサス(ボルト⇒サスケ)原作ベース
捏造出会いからのアレコレ……を書くつもりだったシロモノ。未完。
初めて出会った時、何て綺麗な男(ひと)なんだろうとボルトは思った。
男の名前は、うちはサスケ。
ボルトの父親である、うずまきナルトのライバルであり親友であるのだということは後日になって知った。
出会いもボルトにしてみたらなかなか衝撃的なものだったと思う。
忍者学校(アカデミー)を卒業して無事に下忍となったボルトは恒例の班編制で父親同様七班となり、そのメンバー構成はボルトの他に男女一人ずつ――昔から恒例の男女比である――で、女の班員は、うちはサラダという同じクラスで勉強したくノ一であり、名字で知れるように先に述べたサスケの娘だ。
もちろん、その時にはサスケの事は聞き及んでいるだけで実際に会った事などない状態だ。
寧ろ会った事がある、等と言えばサラダから締められる事間違い無しだ。ボルトも最近になって知った事だが、サラダは実の父親だというのにホンのついこの前、アカデミー卒業の頃までサスケに会った事が無かったのだという。
そのことを知った時、漸くアカデミーで一緒の頃にボルトが父親のナルトについて愚痴を零す度にサラダが呟いていた『あんたは未だ良いじゃない』という言葉の重みを思い知った。
いくら父親と過ごす時間が少なくなってしまったとはいえ、ナルトは影分身の術を駆使してボルトの相手をしようとしてくれる。それが影分身に過ぎないとしても、普通の分身の術と違って本体と変わりない肉体と思考とを持っており、ほとんど本体と同様であるということを鑑みれば、父親が相手してくれているのとほぼ同じだ。
感情的にそれがどんなに気に食わないとしても。サラダに比べれば未だマシなのだ。
そんな風に違った側面から父親のことを捉え始めた矢先だった。
七班でCランク任務を請け負って木ノ葉の里、郊外にある山中に分け入っている時だ。任務事態はそれほど難しいものではなかった。山中に巣くってしまった野犬の群れの駆逐である。
一般人であれば多少の危険を伴うだろうそれも忍者である彼らにしたら危険でもない。寧ろやり方を一歩間違えれば変な方向で愛護精神を発揮しているとしか思えない動物愛護協会あたりから大クレームが飛び出してしまいそうだ。
もちろんそんな事態にならぬよう駆逐すると言っても殺す訳ではなく全匹捕獲するという任務だ。
相手が犬とあって個々において捕獲するという方法が取られたのである。
通常であれば、これは何ら問題なく非難される謂われも無い方法だった。もちろん、そのように判断したからこそ七班の上忍師であるシズキは各人へと指示を下した訳である。
ただ、今回シズキにとって不幸だったのは通常何事もなく終えられる筈の任務に予想外の横槍が入ってしまった事だ。
チームで動く任務において各人が単独でそれぞれ動く時は、必ず相手との連絡が取れるようにレシーバーが各人に渡される。それで連絡を取りながら連携を取って任務をこなしていく。
だから、普通は各人で任務のために動き、ばらばらになってしまったとしても何ら支障は出ない。連絡が取れるのであるから、チームの誰が何処にいて何をしているのかは、それぞれ把握出来るものだ。
ところが、だ。
途中、いきなりボルトとの連絡が付かなくなった。
これにはシズキも慌てた。
野犬の群れの捕獲である。通常、そういったアクシデントが起きる筈もない。それが起きたわけだ。
しかも、である。
ボルトに渡した筈のレシーバーが無残に壊された状態で道端に転がっていたりしたものだから、真っ青となった。
それが、単に故障レベルで転がっていたのなら未だ良い。粉々に近く、いかにも誰かの手によって壊されました! という状態だったのだ。
青くならない方がどうかしている。
ボルトは何処に行った? と慌てて周辺を散策するが全く痕跡を追うことが出来ない。
ボルト以外の班員であるサラダともう一人の男子班員は直ぐに連絡が取れて合流する事が出来た事にホッと一息吐く。これで、この二人とも連絡が取れなくなっていたらと思うと心底ぞっとする。
どちらにせよ、責任問題となることは免れ得ない。
何しろ、ボルトは現七代目火影であるナルトの息子なのである。
班員に優先順位を付ける事などあってはいけない事だというのは重々承知している事だが、それでも建前と本音が存在してしまうのは人間としてどうにも仕方ないことだ。
ボルトは何も出来ない幼子という訳ではない。アカデミーを無事に卒業出来、更に言うなら卒業後に行われる真の卒業試験とも言える担当上忍のシズキが課した試練を問題なくクリアした歴とした忍者である。
とはいえ、卒業したての下忍であり未だ未だひよっこであることは否定出来ない。残念ながら半ば神格化しているようなカカシやイタチのようなアカデミーを五歳やら七歳で卒業しただとか僅か六歳だの十歳で中忍になっただの、それから直ぐに暗部入りを果たしただのという華々しい説話の持ち主とは違う。
ごくごく普通に忍者として認められたばかりの少年なのだ。父親のナルト同様、将来どう化けるのかは未知数ではあったが、現時点では他の少年少女達同様――というより寧ろ劣っているくらいだ。それはそれでナルトを彷彿とさせるだの、ナルトの息子だからといった見方が強い。つまり周囲から期待だけは山のように向けられている、ボルトはそんな少年なのだ。
だから、今のボルトにそれほどの力はない。同期下忍の仲間内でさえ下から数えた方が早いだろうといった力量なのである。中忍や上忍に掛かれば一溜まりも無い。
火影の息子という立場はボルトの存在を脅かすものでもある。
これまではアカデミー生ということで、里の中で良くも悪くも守られていた。
それがアカデミーを卒業することによって、その守りが一切なくなってしまったのだ。
ボルト本人がどう父親のナルトを否定しようとも、ボルトが火影の息子であるという事実が消える事は無い。それはある一部の者達にとっては大変好都合な状況を作り出してしまったのだ。
「いててて……っちっきしょぉおっ、思いっ切り殴りやがって」
その頃、ボルトはというと洞窟の奥に縛られて転がされていた。もちろん一人ではない。ボルトを殴った者達も一緒である。とはいえ、連中は洞窟入り口にたむろしているためボルトの傍に連中はいない。だからボルトが毒づいても咎める者はいなかった。
ボルトは捕まっていた。
シズキが懸念していたように、ボルトが単独で野犬を捕獲しようと躍起になって周囲への気配りに対して隙が出来た、その機会を狙われたという訳だ。
ボルトを襲ったのは抜け忍集団だった。
今、木ノ葉の里は第四次忍界大戦終結の立役者となったナルトが火影となっている。他里の影達も謂わばその時活躍した者達がそれぞれ後を継ぐ形でそれぞれの里のトップに付いている。つまり、自然とナルトが長を勤めている木ノ葉の里が忍界においてリーダーシップを取って動くというのが通常となっているのだ。
つまり、だ。
忍界において、その考え方や在り方といったものにどうしても馴染めない、賛同出来ないといったはみ出し者は存在する。ならば忍者を辞めれば良いという話なだけであるのだが、そういった者達に限って力に対しの執着だけは人並み以上であるので厄介だ。
そういった者達は結局、里抜けをし抜け忍となって世間へと多大なる迷惑を掛ける存在となっていく。それが分かっているから各里としても抜け忍をそのままにはしておらず追い忍という討伐部隊を組織して里を抜けた者を始末しようとする。
その一連の流れの中、里抜けした者たちにしても殺される為に里を抜けた訳ではない。寧ろ好き勝手自由に生きようとして里を抜ける訳である。よって自然、抜け忍同士で手を組み徒党を組んで追い忍を返り討ちとしようという集団が出来る事となる。
ボルトが捕まってしまったのはそういった抜け忍集団の一つだった。
そういう連中にとって木ノ葉の長である火影の息子というボルトは非常に使い勝手の良い見逃せない駒だった。
ナルトに対しての脅しに使う事も出来れば洗脳し刺客として送り込む事も可能となる。
護衛が傍についているならともかくとして、隙だらけで一人でいるというこれ以上はない好機を逃すわけが無かったのである。
ボルトにとって不幸だったのは隙を見せてなかったとしても敵わなかっただろう相手が一人だけでなく複数で襲い掛かって来たという点だろう。
抜け忍となるくらいの腕を持つ者達である。そのほとんどが上忍クラスの腕前を持っている。
ボルトが太刀打ち出来る相手達では無かった。たちまちの内に殴られ蹴られして意識を奪われ、気付いた時にはこの洞窟の中に縛られて転がされていたのである。
ナルトに対して利用しようという心づもりであるから殺される事はなかっただろうが、それでも手足の骨が砕かれたりもがれたりといった可能性も無い訳では無かったのだから、五体満足で転がされている今は不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
もぞもぞと躰を動かして縄抜けの術を駆使して何とか逃れようと意識が戻ってからこちらボルトも試みてはいるのだが、敵にしてもボルトが一般人ではなく忍の端くれであるという認識は持っていたらしい。縄には何か特殊な術が掛けられてでもいるのか、ボルトの持つ縄抜けの知識では一向に解けてはくれなかった。
「も、何なんだってばさっっ」
何度目かの試みに失敗して苛々が頂点へと達して、ぐるぐる巻きに芋虫の様に縛られたままごろごろとそこら辺を転がって唸る。
「こんな風に縛ることないってばさっ……さては、オレが凄い忍者なのを悟って、ここまで頑丈にしないと安心出来なかったんだってばよ」
「そんなわけあるか……ウスラトンカチの息子はやっぱりウスラトンカチってことか」
ボルトが自己満足的に、そう今の状態を自分なりに慰めてしまう言葉を発した途端だった、全くそれまで聞いた事のない声が心底呆れたという溜め息と共にボルトの耳へと届いたのである。
「だ、誰だってばさっっ」
もちろん、ボルトは誰何の声を上げる。
ボルトを殴る蹴るした連中とは違う、本能的にそう悟らされた声。だが、ボルトに対して嘲るまでは行かないまでも呆れを含んだ声音は充分にボルトの気に障った。言ってしまえば矜持を傷つけられたと感じたわけだ。
誰何の声を上げると同時に声の方へと顔を向けるが生憎此処は洞窟である。しかも転がされているボルトに必要ないと判断されたのか明かりは小さくボルトが転がされている傍の岩壁へと松明が一本火を灯しているだけ、相手の容貌などは影に覆い隠されていてほとんど不明だ。
ただ不明だと思うのはボルトだけで相手にはボルトの様子は明らかに見えている。ボルトがそう判断したのは続けられた男の声からだ。
「縄抜けも出来ないのか? 父親そっくりだな」
「なっ……て……アンタ父ちゃんを知ってるのかってばさ?――つか、オレの父ちゃんってば七代目火影で縄抜けくらいお茶の子でやってのけるってばさっ」
ボルトは父親に反発している。だが、父親を馬鹿にされたと感じた途端、むくむくと其処にいる男への怒りが込み上げてくる。
ボルトがナルトに反抗している、それとこれとは別とばかり男へと噛み付く勢いで言い返している。反発していても父親の凄さは認めているのだ。
其処にいる男の強さなど知らないが父親ほどではないに決まっている。そんな父親より弱い男に父親が馬鹿にされて黙っている訳にはいかなかった。
だが、ボルトが勢いよく言い返しても男は平然としている、どころか、どこか面白がっている声音で返すのだ。
「ああ、今のナルトならそうだろうな」
「ナル、ト……?」
「お前の父親の名前だろうが……いくらウスラトンカチそっくりの息子でも父親の名前くらい覚えてるだろう?」
「……っ、アンタ、すげー失礼なヤツだってばさっっ」
「そりゃ悪かったな」
ボルトが何を言っても男は何処吹く風な態度を崩さない。
それはそうだろう。
男にとってボルトは何も出来ない蓑虫状態で転がされているただのガキである。恐れ入る理由がない。
歯牙にも掛けない、そんな言葉そのものの態度を貫く男にボルトは歯噛みする。
「ところでお前、一応オレはお前を助けに来たわけだが……そのまま転がっているか?」
「っっ! 失礼な上に性格まで激悪だってばさっ」
ボルトが思ったままを告げる。――と、男がくつくつと笑い出したのだ。もちろんボルトは呆気にとられる。
「色々はっきりと言うヤツだ。父親そっくりだな」
男の声色はますます楽しげだ。
ざり、と。
男がボルトの方へと歩み寄って来たのが分かった。
とはいえ、あくまでもシルエットが近付いて来たというだけで男の容貌はボルトに知れることはない。
蓑虫状態のボルトの間近へと男が立つ。その場所が背後となると歯がゆいことにせっかく松明の明かりが薄明かりとはいえ差しているというのに、直ぐには男の容貌を確かめる事も出来ないでいる。
それでも何とかうぞうぞと躰を蠢かして男の方へと顔を振り向けようとしたボルトだった。
「動くな。怪我をするぞ」
が、動こうとしたボルトの気配を敏感に察知して男がいち早く告げた。
そんな風に命令されて大人しくきくボルトではない。
もちろん、反抗しようとした。
だぁれがアンタの言うことなんか聞いてたまるもんか、と。返そうとしたのだ。
一閃。
何かが躰の傍を掠めた。
次の瞬間、ボルトを縛めていた縄がぱらりと解けたのだ。
もちろん、男が何かをしたのに違いなかった。それがボルトには一切分からなかっただけで。
「ほら、行くぞ」
男がボルトを促す。
「べっ……っ、別に助けてくれ、なんて言ってないってばさっ」
立ち上がりながらボルトが憎まれ口を叩く。その返しは痛烈だった。
「可愛げのないガキだな……お前の意思は関係ない。お前が捕まっているとナルトに迷惑が掛かる。その判断も出来ないのか?」
「……っ」
悔しい。
だが、男が告げる通りなのだ。
ボルトが抜け忍の集団に捕まったままだというのは、抜け忍共がどういった要求をするにせよ何をボルトにさせようとしているにせよ、大なり小なり父親へと迷惑が掛かる事に違いはない。それはボルトの本意では無い。
ボルトは父親に対して反抗心を持ってはいるが決して父親をそういった方面で困らせようとか窮地に立たせようとか思っている訳ではない。
「まぁ良い。オレはもう行く。お前は好きにしろ」
「え? 連れ帰る様に父ちゃんに言われて来たんじゃなかったんだってばさ」
男の口ぶりから、てっきりナルトからの依頼で動いている忍――恐らく暗部の――ボルトを助け出し無事に連れ帰るという任務を帯びた木ノ葉の忍の一人だと思い込んでいたのだ。
確かにそれにしては物言いがえらく不遜ではあったのだが。
「別にそういうわけじゃない。偶々通りがかったところでお前が此処を根城にしている抜け忍集団に捕まっていると知れたからな。オレが独断で助けただけだ」
「そうだったんだってば……え、と……その、悪かったってばさ。色々失礼な事言って……ありがとだってば」
「――いや、大した事じゃない」
まさかボルトが礼を言うとは思ってもみなかったのだろう。男が驚いたのが雰囲気で分かる。
それがまたボルトの癪に障る。
助けて貰った相手に礼も言えないような失礼な男じゃないってばよっ! この時のボルトの心の声を表せばそういう事だ。
男にとってボルトが付いて来ようが付いて来まいが、反応はどうでも良い事だったに違いない。
すたすたと歩き始めてしまう。
「あ……待ってってばさっっ」
何となくそれも気に入らなくて、ボルトは慌てて男の後を追って小走りに付いて行く。
男に付いて行って気付く。ボルトが転がされていたのはかなりな奥だったらしい。迷いも無く枝道を選び進んで行く男の後を付いて歩きながら、意地を張って男の後を付いて来なければ確実に迷子になっていたかもしれない、そう思いホッと息を吐く。
「なぁなぁ……アンタ誰だってばさ?」
「お前に名乗らなければならない義理はないな」
「いちいち腹立つ事しか言わなねーってばさっ」
「アンタ呼ばわりするような失礼なガキにあれこれ言われたくはないな」
「むっきーーーーーーーっっほんっと腹たつってばよっ」
男は毒舌だった。
しかも相手がボルトの様な子供でも容赦ない。
鋭い舌鋒が遠慮なくボルトへと降り注ぐ。
それでも何故だかボルトはこの男から離れがたいものを何時しか感じていた。
そして――入り口近くとなった時。
陽が差し込む洞窟のそこかしこにボルトを捕まえた抜け忍達が倒れていた。
むっとする血臭に思わず嘔吐きそうになる。
一目見て分かった。
生きている者は一人とて……いない。
皆、一太刀で絶命させられている。
ぞくり。
背筋が震える。
ボルトも下忍とはいえ忍者の端くれである。
だからこそ、ボルトを捕まえたこの連中がかなりの手練れだった事を確信していた。ボルトが彼等に比して弱かった、というだけではない。
実際問題として強い忍達だった筈だ。
それが――。
相当な実力差がないと無理な状況が作り出されている。
男に仲間がいる風はない。
多勢に無勢という言葉がある。
男には全く関係のない言葉のようだ。
「……アンタが……全員、殺ったのかってばさ?」
殺戮現場のただ中に在って男は只管静かだった。そこだけ世界が違うような……。静謐な空気を纏って立っている。
異質と言えばこれ以上異質な空間もない。
だが、それが男には似合っていた。
ぞくり、と再びボルトの背中に電流の様な何かが流れる。だが、それは畏れからではなかった。どちらかというと、それとは正反対の何か。表現するなら、それは興奮という単語が一番近いだろうか。
己が殺し尽くした相手の屍のただ中にあってすら毅然として立つ姿。洞窟の入り口から差し込む陽の光によって逆光となりシルエットとなってボルトの目の前に一幅の絵のように展開される。
それは美しかった。
美しいと感じたのだ。
男の圧倒的な存在感の前にボルトは立ち竦んでしまう。
それを別の意味に捉えたのだろう男がボルトへと問う。
「死体を見るのは初めてか?」
「初めてで悪かったってばさっっ……てか、オレの質問に答えろってばよっ」
「別に悪いとは言ってない。初めてなら悪かったと思っただけだ。ガキには刺激が強すぎた」
「ガキ、ガキ、言うなってばさっ。オレにはうずまきボルトって親が付けてくれた名前がちゃんとあるんだってばよっ」
「そうか。それは悪かった。ボルト、ここから里への道は分かるか?」
洞窟の外へ出た男が問う。
ボルトは男に付いて外へ出た途端、陽射しの眩しさに一瞬目が眩む。
「わ……っ、眩しってばさっ」
そして、視力の戻った目を改めて助けてくれた男へと向けて。
初めて男の容貌をその視界へと入れた。
「……………………………………」
――途端。
どっきん。
どきどきどきどきどきどき。
心臓が早鐘の様に打ち付け始める。
かぁぁぁ、と頬に血が上るのが分かった。
きっと真っ赤な顔になっている、とボルトは思った。
「……どうした」
いきなり、男の顔を見た途端に無言となってしまい、あわあわあわと口をぱくぱく開閉させるに止まっているボルトを不審そうに見やる。
だが、ボルトは男の問い掛けにまともに答える事が全く出来なかった。
なぜなら、ボルトが視界に入れた男の貌はボルトが今まで生きて来て見たことがないと思ったほど綺麗、だったのだ。
それは先ほど美しいと感じたものとはまた別物だった。
情景に圧倒されたのではなく、今度は男個人に圧倒される。
陶磁器のように白い肌に黒い黒い吸い込まれそうな深淵を持つ眸が一つ。
片方の眸は同じく漆黒の髪に隠されている。
片側は隠されているというのに、男の秀麗さは見てとれた。
美しさが際立っている――ボルトに表現するだけの語彙が備わっていたなら、そんな風に表しただろう。
美形は顔が半分隠れていても美形って分かるんだ、と。その時初めてボルトは知った。
美しすぎる男を前にしては言葉が無くなってしまうものだという事も。その時に思い知った。
「えとえとえと……アンタってばさ……」
何かを告げようと思うのに、何を言って良いのかが分からない。
でも会話したい。
そんな衝動が込み上げて来て困る。
「なんだ」
男は静かだ。
ボルトの様子にも全く、毛ほども気に掛けているといった様子はない。
それが悔しい。
この美しい男の眼中に無いことが非道く憤ろしい。
口をきゅっと噛み締める。
ぎゅっと手を握り込んで。何とか男と離れない口実を探す。
とにかく未だ一緒にいたかった。
「あのあのあの……里まで連れてってってばさっ」
漸く口実を見付けた。
先ほど、男は里への道が分かるかとボルトへ問い掛けて来た。それならば里への道が分からないと答えたなら少なくとも木ノ葉の里までは一緒にいられる、とそう咄嗟に計算したのだ。
流石にナルトの息子である。
変なところで頭を使う。なかなか狡いが上手い手ではある。
「里への道が分かるところまでだ」
「それで構わないってばさっ」
こくこくこく。
何度も首を縦に振って頷く。
そうしながら、この男と離れないためにはどうしたら良いのかを必死になって考えている。
「なぁなぁアンタの名前……名前教えてくれってばさ! オレの名前さっき教えたってばさっ。アンタの名前教えてくれるのが礼儀だってばよ」
「……うちはサスケだ」
ボルトの知恵を絞った問い掛けに男は苦笑した。
そして。
漸く名前を教えてくれた。
これがボルトがサスケに出会った初めての時である。
Copyright (c) 2021 SUZUNE ANGE All rights reserved.
-Powered by HTML DWARF-