年明け


ナルサス←…… 原作ベース
相変わらず勢いで書き散らした産物。決着点が迷子。
サスケしか出て来ません。ナルサスです(主張)
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 思えば今年一年は怒濤の年だったとサスケは思う。
 大筒木カグヤの残した白ゼツ軍団の謎を調査する旅の最中でとうとうカグヤの住んでいたらしき城の遺跡を見付けたところが、其処にいたモモシキとキンシキという大筒木一族の二人と戦闘となったものの一旦痛み分けのように其処を離れた。
 その城で手に入れたカグヤの残したものであろう巻物を手に木ノ葉の里へと直ぐさま戻り解析を依頼し、解読出来るまでの間親子でゆっくりした時間を過ごそうと思っていたところを、ナルトの息子であるボルトに弟子にしてくれと迫られた。
 直前のナルトとの会話が脳裏を過ぎって弟子にする為の条件を提示した。そこで諦めるならそれまでだと思っていたのだが、意に反してボルトは僅か五日間で螺旋丸を習得した。
 普通、螺旋丸を習得するのは第一段階の形態変化を経て第二段階の性質変化へと到る。ところがボルトは段階をすっ飛ばしていきなり性質変化までを会得していた。
 大きさからすればナルトが最初に披露した螺旋丸の十分の一以下だったがナルトが形態変化から性質変化を会得するまでに掛かった時間を考えれば驚異的なスピードで完成形の螺旋丸を習得したと言える。
 その凄さを説明する前に勘違いしたボルトが駆け去っていき、翌日訪れた時には何をどうしたのかは窺い知れなかったが腕に科学忍具班とかいう得体の知れない部署のおもちゃを着け、恐らくは木ノ葉丸あたりの螺旋丸を得意げに披露して見せた。
 その時に感じた失望は思いの外に大きくて、自分が如何にボルトをナルトの息子ということで期待していたのかを思い知る羽目となった。
 本当はそこでその不正を正すべきだったのかもしれない。
 が、サスケはそこでは指摘しなかった。
 それはボルトが何が何でもサスケの弟子にして欲しいと思ったが故の苦肉の策とも取れなくもなかったからだ。
 だから、その場ではボルトに向かい「確かにお前はナルトとは違うようだ。そう思いたくはなかったが」と告げるに止めたのだ。
 そして弟子にしたボルトは娘であるサラダが言うように地道に修行を積み重ねていく、ということを知らない子供だった。
 なまじ器用に与えられた課題全てを難なく熟せていけるだけの才能に恵まれてしまったが為の弊害だった。
 恐らくボルトはこれまでアカデミーを卒業するまで大概の忍術を大して苦労することなく会得出来てきていたのだろう。
 だから基礎から地道に修行を積み重ねた者はいつしか教えた者の期待以上の成果を上げることが出来るのだ、ということも知らない。
 器用に何でも熟せるが言ってしまえば、それはそこまででしかない。当にボルトはその典型で、このままなら遅かれ早かれ成長は詰んでしまうのは目に見えて明らかだった。
 先ずはそこから何とかしていかなくてはならない。
 サスケは徹底的に基礎を叩き込むことにした。
 手裏剣にしてもアカデミーで教えるのはただ真っ直ぐに的の中心へと当てる事だけだ。なまじ直ぐにクリアしてしまったが故にボルトにはその先がない。たかが手裏剣、されど手裏剣術。小手先が器用なだけでは上手く出来るものではない。
 サスケは先ず、手裏剣を曲げることから教えた。それが出来るようになればより曲げるためにどうしたら良いのか、更には隠された的に当てるためにはどうしたら良いのかという、かつて己の兄が教えてくれたことを伝えていく。
 弟子を初めて持つことでサスケにも得るものが確かにあった。それは言ってみれば技術の継承というものの大切さだった。
 伝えなければ己の代で終わってしまうものが確かにあるのだ。それを伝えないのは自らの義務を放棄しているただの怠慢と言えるのではないか、そんな風に考えていくのは新鮮である意味楽しい事だった。
 そんな風にして日々を過ごしていたサスケだったがカグヤの城から持ち帰った巻物が解読されたと同日に件の二人が攻めて来たのは果たして偶然だったのか。
 そして戦闘開始。木ノ葉の里での戦闘はナルトがモモシキ等に連れ去られる事によって一旦終了した。
 五影と協力してナルトを助けに行くのにボルトを連れて行ったのはサスケなりにボルトの螺旋丸に勝機を見いだしていたからだ。何しろ、性質変化をいきなりさせていただけでなく途中消えてしまうという効果まで加えていたのだ。
 サスケの思惑通り、モモシキ・キンシキは五影の協力の下ボルトの活躍によって退けられた。
 サスケの言によって全世界の脅威となるべく何かが襲ってくるのではないか、という危惧を常に持ちざるを得なかった五影はホッと一息を吐いた。
 だが、サスケにとってはそれからの方が寧ろ怒濤の日々だった。
 何しろ、大筒木の脅威が去ったのだ。――再び訪れるとしても、カグヤからの今の年月を思えば、次の大筒木の襲撃は遙かに先の事だと思われた。ならば、それだけの敵に備えるための時間があるということだ。対抗するための余裕が与えられているのであれば五里が手を結んでいさえすれば次の脅威に備えることは容易い。そう思われた。
 つまり、それはサスケが世界を巡り何時来るとも知れない大筒木の脅威を探る必要がなくなった事を意味する。そうとなればサスケは元々木ノ葉の忍だ。一度、里を抜けたとはいえ里に戻ってその罪は充分償ったといえる。帰属するなら木ノ葉の里と考えるのが普通だろう。
 ところがサスケの実力は五影の知るところだ。五影全員が木ノ葉がサスケを引き受けないなら、と虎視眈々と妻子共々サスケの帰属権を狙っていたものだ。だが、そんなことをナルトが承知する筈もない。サスケは木ノ葉の忍だってば、というナルトの鶴の一声であっさりとサスケは表だって正式に木ノ葉に復帰することとなった。
 そうなると必然、火影であるナルトの補佐をする羽目となるのは元々ナルト自身がサスケのことを『もう一人の火影』と称していたのだから当然のことと言えた。
 そして、サスケはシカマルと共にナルトの補佐としての業務を請け負ったのだが……実際にナルトの補佐として動き始めてからが地獄の日々の始まりだったのである。
 なにしろ、サスケの目から見てナルトの火影業務は穴だらけだった。そりゃいくら影分身を駆使したとしても家に帰る暇がなくて当然だろう、と実感するほどに効率が悪かった。思わず、お前が付いていて何故こんなことになっている? とこれまでナルトの補佐を一人で頑張ってくれていたシカマルに詰め寄ってしまったくらいのレベルである。もちろんシカマルにはナルトの制御の難しさを誰よりも実感している者として直ぐに謝ったのだが。
 とにかくナルトは一見素直で御しやすいように見えるが、その実いったんこうと決めたことに対しては人の意見など全くきかない。『オレが諦めることを諦めろ』とはけだし名言である。
 結局、己のやりたいようにやる! それがナルトだ。
 とはいうものの、この火影業務についてはそうも言っていられない。早急の改善が必要なのは火を見るよりも明らかだった。でなければいつまでたっても机の上の書類は積まれたままでなくならない。
 ナルトのため、というよりサスケ自身の精神衛生上の平穏の為に業務改善に取りかかったサスケだった。
 宥め賺し時に脅し、業務の効率化と簡素化を図ってナルトに上がってくる書類を減らし、影分身を駆使していたものでナルトでなくとも大丈夫なものについては責任者を決めてそちらに全て任せる。そうすることによってナルトの負担は軽減する。少なくとも机上に溜まりまくった書類を片付けていくだけの余裕が出る。その上でサスケ自身がナルトと同じ権限で動けるようにすれば後は塵も積もれば山となるの心情でこつこつと山を崩していけば良い。そうすればいつかは机上の書類もなくなってすっきりする。
 而して、サスケの目論見通りナルトの机上に溜まりまくっていた書類は今では最盛期の五分の一にまで減っている。すっきりとなくなるまで後少しだ。サスケにすれば年内には片付けておきたかったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。だが、まぁ、先が見えなかったサスケの赴任時に比べれば格段の進歩である。
 そんなこんなで大筒木モモシキの襲撃からこちらサスケの身辺は怒濤の変化を遂げ、年の瀬を迎えた今振り返るに溜め息しか出ない。
 それでもそれを倖せだと感じているのだから相当だと思うのだ。ナルトの傍でナルトを補佐する。それがどれほど多忙であっても嬉しいと感じる。
 末期だ――と。
 そっと吐息する。
 これは恋ではない、と思っている。そんな生易しい感情ではない。寧ろ、名前を付けるとするならば〃執着〃が一番相応しい。
 ナルトはヒナタと付き合いだし結婚してからはサスケへと向かっていた激情とも言うべき感情をすっかり落ち着かせてしまった。というよりもサスケへと向かっていた執着のような何かを失くしてしまったのだと。サスケだけではなくナルトを知っている者ならば皆、口を揃えてそう言うだろう。そう、いつからかナルトはサスケに対して〃かなりの友達〃というテンションを向けなくなった。かつてシカマルをして『お前らの距離感おかしかねーか?』と言わしめたソレはなりを潜め普通に友人として接していた。
 しかし、それは見せかけでしかなかった。
 ナルトの心底では全く変わらないサスケへのベクトルが存在していた。あの、モモシキとの闘いの中でそれを見せつけられた時、サスケの中に浮かび上がったのは紛れもなく歓喜だった。
 自分の中にそのような情動が隠されていたことに自身で驚いたサスケである。
 ナルトは神樹の空間から戻ると再びサスケに対して着かず離れずといったごく普通の友としてのポジションに収まった。だからサスケも、とはならなかった。
 以来、サスケはナルトに向かう情動に逆らうことを放棄し続けている。
 怒濤の一年が終わり新しい年を迎えた今、ナルトとの関係がどうなっていくのかサスケにも未だ予測出来ずにいる。
 このまま静かに友として終わるのか。
 それとも――。
 サスケ自身、己がどちらを望んでいるのかそれすら濃い霧の中だ。
 それでももうナルトからは逃げない。
 あの日、ナルトに向かって負けを認めた時から決めている。
 何があっても己がどうなろうとも絶対に。ナルトから逃げない。ナルトが追い掛けなくてはならなくなるような状況には二度と陥らない。陥らせない。
 それによってナルトの心情が変わっていくのであれば、それすらもサスケは受け入れる。
 薄らと明け初めていく空を顔岩の上から眺めて新年の夜明けを迎えている木ノ葉の里を見やる。年が明けたからといって別段強い感慨などはない。それでも今年からは常にナルトの傍でこの里を守ることとなる。十三の歳まで産まれ育った里とはいえ里抜けの後の旅に続く極秘長期任務で、最早離れていた年月の方が長い。ならば、里に対しての愛着など皆無だろうと自身でも思っていたにも拘わらず、こうしているとやはり里を守っていく、ということに対しての自覚とそれが出来るだけの自身の力への誇りが込み上げる。
 故郷、というのは殊の外、己の心を縛るものなのかもしれない。
 薄もやの中で徐々に活気を帯びていく里の情景を後にサスケは己の妻子が待つ家へと踵を返したのだった。





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